「春の匂い」(2024年04月24日)

「春の匂い」(2024年04月24日)

はじまりは3月の終わりのことだった。
その日も、オフィスは周辺工事の砂埃とトラックの往来で覆われていた。
「今日、排気ガスきついよね?」と隣のWさんに尋ねると、彼女は不思議そうに答えた。
「そうですか? 私マスクしているからかな?(感じませんね)」
近くに座っている同僚たちも同じ意見だった。
しかし、私の喉は排気ガスで痛む。
誰もそのにおいを感じないなんて……。

その晩、マンションに戻ると、またガソリン臭がした。
この奇妙な現象は翌日も続いた。
2日目の晩、怖くなりスマホで検索した。

ガソリン臭がする 🔍

ずらりと並ぶ検索結果。
びっくりして、私はさらに1時間近く、夢中で調べ続けた。

●わかったこと

  • においのないところで、べつのにおいを感じる「異臭症」という症状がある
  • 多くの人が「ガソリン臭」「排気ガス臭」「焚き火臭」を訴える
  • 鼻の粘膜の炎症、ストレス、加齢……要するに原因ははっきりしない
  • 原因がはっきりしないので、治し方もよくわかっていない

思い返せば、2週間前に仕事で山のほうに出かけた。
強風で花粉を大量に浴びた。以来、花粉症の症状が出ていた。
翌日、急ぎ耳鼻科を訪れた。
異臭症は珍しいことではないらしい。
医師は軽く頷き、私の鼻の穴に大きなピンセットをつっこみ、広げながら、
「まずは花粉症を治しましょうね」と言って薬を処方した。

私の花粉症はぴたりとおさまった。
しかし、異臭症は依然として私を苦しめる。
ふとしたときに強烈なガソリン臭に見舞われる。
別の強い香りで覆えばどうだろうかと思い立ち、「ユーカリバーム」を手に入れた。
この油性クリームは呼吸器系にもよく、首や胸元に塗るように、と説明があった。
が、ガソリン臭はそれをも上回る。
思い切って鼻にベトベト塗る。
すると鼻頭が油で輝き、犬のようになる。
そもそも人前で鼻に塗るのは気が引ける。
そんなとき、SNSでまわってきたYouTubeに目が留まった。
ルイヴィトンの香水をつくっている世界三大調香師のひとり、
ジャック・キャヴァリエ・ベルトリュードが教える
「正しい香水のつけ方」。


香水は、手首や首筋につけるものではない。
正しくは手の甲につける。
手の甲は面積が広い。人は一日中手を動かすから香りが自分に向かってくる。

https://youtu.be/GfJC34xM0Y8?si=MfKyOrgJYF_Ox0e-

ルイヴィトンにもジャックさんにも大変申し訳ない気がしたが、
私は、これだ! と思い、
2000円もしないユーカリバームを手の甲と指の背側に薄く塗った。
手を動かすたびにユーカリ香が漂う。
ガソリン臭がやってきたら、
指の背を鼻元までもってきて、コショコショとこする。
ユーカリ>ガソリン!! ユーカリが勝利する。
コショコショ→ユーカリ! コショコショ→ユーカリ!

ジャックのように手をひらひらさせては、コショコショ、コショコショと鼻をこする。

……これなんだっけ? としばらく考え、
“ビッケ”(『小さなバイキング』)のことを思い出した。
(知ってます? 『小さなバイキング』というアニメ?)
ビッケのように「ひらめいた!」とはいかないが、
とりあえず私は、異臭症から逃れる方法を見つけることができた。

みなさんも異臭症にはお気をつけて。

シロ